重粒子線治療の特長
重粒子線とは
放射線は光子線と粒子線に分けられます。光子線はエネルギーの高い光、粒子線は加速された粒子です。前者にはエックス線、ガンマ線、後者には陽子線や重粒子線があります。
体内に入射した重粒子線は、ある深さまでは体内組織にあまりエネルギーを与えずに早い速度で駆け抜け、途中で急に速度を落として多くのエネルギーを与えて線量のピークを作り、その後は体内で停止します。重粒子線はエックス線や陽子線に比べて生物学的効果(がんを殺す効果)が高いです。
当施設では重粒子線として炭素イオン線を使います。
■がんの放射線療法で使用する放射線

重粒子線の生体内における線量分布
従来から用いられているエックス線の場合、体の表面近くでその効果が最も大きく、体の中を進むにしたがって効果は次第に弱まっていきます。一方、粒子線は体のある一定の深さでエネルギーのピークを迎え、その前後で弱く抑えられる特性があります。ピークになる深さをがん病巣の位置に合わせることでがんだけを集中的に狙い撃ちすることができ、体の深いところにあるがんにも大きな効果が期待できます。また、粒子線は直進性が高く、特に重粒子線は陽子線に比べて直進性が優れています。
■重粒子線照射イメージ

■各種放射線の生体内における
線量分布

■前立腺治療時のいろいろな照射法の比較




重粒子線システム
スキャニング照射方式
従来のブロードビーム照射方式は、細いビームを散乱体・リッジフィルタで立体的に広げ、患者毎に必要な専用の補償フィルタや患者コリメータなどでビームの形を整えて照射します。ただし、腫瘍の形状によってはその手前に不要な高線量部分ができる場合があります。
スキャニング照射方式は細いビームを用い、腫瘍の形状に合わせて正確に照射することが可能な技術で、従来に比べて周囲の正常な細胞への影響を抑えることが可能です。また補償フィルタ・患者コリメータが不要であるため、治療準備期間と治療時間が短縮されます。
■従来の照射方式(ブロードビーム法)

■スキャニング照射方式

動体追跡照射システム
動体追跡照射システムは肺や肝臓のような呼吸等で動く腫瘍の位置をリアルタイムで捉えて、正確に照射可能です。2方向から照射するエックス線装置と位置決め計算する処理装置、ビームゲート信号発生部から構成されています。腫瘍近傍に直径2mmの金マーカーを留置し、CT装置であらかじめ腫瘍との関係を把握しておきます。2方向からのエックス線で、透視画像上の金マーカーをパターン認識技術にて自動抽出し、腫瘍の位置を周期的に繰り返し計算します。金マーカーが計画位置から直径2mm程度の範囲にある場合だけ重粒子線を照射することで、呼吸等により体内で位置が動く腫瘍でも高精度で治療することが可能になります。呼吸等で動いている腫瘍の範囲をすべて照射する従来の方法に比べて、動体追跡照射を導入することで照射領域を減らし、正常組織への照射を大幅に減らすことが可能になります。