第2期5カ年計画 2024年4月~2029年3月

はじめに

人生100年時代を迎えて、今までの病気を治療することに重点を置いた医療から、 「生活の質(QOL)」をより重要視する医療が求められています。今や、2人に1人はがんを患い、3人に1人はがんで亡くなる時代です。また人生100年時代を迎えて、今までの病気を治療することに重点を置いた医療から、「生活の質(QOL)」をより重要視する医療が求められています。健康長寿社会において、がんに放射線を集中して照射でき、周辺の正常臓器への影響を少なく抑えることができる重粒子線がん治療は、QOL維持に優れるとともに、がん細胞殺傷効果も高い低侵襲ながん治療法です。また治療期間が短くて済むなどメリットの多いがん治療法だと言えます。

重粒子線がん治療装置は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下QST)の前身である放射線医学総合研究所において、1993年に世界で初めて開発に成功しました。現在、重粒子線施設は全国に7施設ありますが、公益財団法人大阪国際がん治療財団(以下財団)が運営する大阪重粒子線センター(以下センター)は2018年3月に国内6番目の施設として開院し、同年10月に重粒子線治療を開始し、2023年の10月でちょうど5年になります。昨年の治療件数は1000件を超え、2023年度の目標は1150件です。これは全国7施設中トップクラスです。この5年間を第1ステップと考えれば、第2ステップの次期5カ年では何を目指すかという目標を立てることが重要と考えています。そのために、今一度、財団の目的・理念・基本方針を再確認するとともに、センターの「理念」はなにか、そして「志」はなにかを明確にする必要があります。その上で、これらを実現するための5年後の目標と具体的な方策を考えて着実に実行していかなければなりません。

QSTは、日本はもちろん世界の重粒子線がん治療の先駆であり、現在も世界をリードしています。私は2016年からQST初代理事長として、「がん死ゼロ健康長寿社会」プロジェクトを推進、その一環として次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」の開発推進に努めてきました。普通の病院に収まるサイズにするとともに、マルチイオン照射などを導入して治療効果をさらに高めることを目指しています。引き続き、QST、重粒子線治療多施設共同臨床研究(J-CROS)、一般社団法人日本量子医科学会や公益社団法人日本放射線腫瘍学会等と連携し、量子メスなどの新しい技術や治療方法などをいち早く導入し、次期5カ年期間中に質の高い重粒子線がん治療を提供することにより「がんで苦しむことがない健康長寿社会」実現に向けて一歩でも、二歩でも近づく努力をしたいと考えています。

「夢は叶えるためにある」

夢は、人や組織により異なります。しかし、共通していることは、その人にとり、その組織にとり、実現することが不可能と思えることです。夢は所詮夢であり自分とは関係ないと考えれば、夢は永久に夢です。しかし、夢に向かって目の前の1つ1つの山を乗り越えていけば、必ず夢は近づいてきます。そしていつの日か夢は現実のものとなります。しかし、たとえ夢を叶えることができなくても、夢に向かって努力する、その過程がその人の人生を、その組織を実り多く充実したものにしてくれます。

「夢は叶えるためにある」を胸に、「がんで苦しむことがない健康長寿社会」実現に向けて、センターの職員が一丸となり努力したいと思います。

引き続き、みなさまのご支援、ご指導、ご鞭撻をお願いいたします。

2023年12月
公益財団法人大阪国際がん治療財団
理事長 平野 俊夫

理念

重粒子線によるがん治療を通じて、がん患者様と家族の立場にたった安心安全な医療を提供し、国内外における医療・福祉の向上とがん治療の進歩・発展を図り、「がんで苦しむことがない健康長寿社会」実現に貢献します。

人生100年時代を迎えて、今までの病気を治療することに重点を置いた医療から、「生活の質(QOL)」をより重要視する医療が求められています。今や、2人に1人はがんを患い、3人に1人はがんで亡くなる時代です。また人生100年時代を迎えて、今までの病気を治療することに重点を置いた医療から、「生活の質(QOL)」をより重要視する医療が求められています。

健康長寿社会において、がんに放射線を集中して照射でき、周辺の正常臓器への影響を少なく抑えることができる重粒子線がん治療は、QOL維持に優れるとともに、がん細胞殺傷効果も高い低侵襲ながん治療法です。また治療期間が短くて済むなどメリットの多いがん治療法だと言えます。

財団の定款に記載されている、目的・基本理念・基本方針を再認識し、センターは重粒子線がん治療を通じて「がんで苦しむことがない健康長寿社会」実現に貢献します。

重粒子線がん治療と言えば「大阪」

当センターは難治性癌に対する最前線の先端治療施設として最善の治療を提供できるように的確な重粒子線治療の実践および治療エビデンスの構築を行っていきます。肺がん・肝臓がん・膵臓がんなどの患者数が多くかつ難治性のがんをはじめ、重粒子線治療のメリットを最大限生かせる方向で多種のがんに対する治療を実践していきます。またセンターの社会貢献度を最大限発揮できるように、限られた設備と人的パワーを有効活用していきます。

目標と課題

1.信頼されるいい医療の継続

センターではがん患者に対して質の高い重粒子線治療を実施しており、今後も患者様とその家族、各紹介医療機関より引き続き信頼される医療の継続を実施します。
また、既に各種臓器のがん疾患に対して重粒子線治療に加えて化学療法・分子標的薬・既存の局所治療法などと合わせた集学的治療(ハイブリッド治療)が実施されています。これからも新規薬剤・新規医療技術開発が望まれ、さらなる集学的治療を各医療機関と連携して発展させていきたいと考えます。

2.がん治療のパラダイムシフトの可能性の検証

現時点ではがん治療の評価は生存率・無再発生存率であり、QOLの維持はデータとしてはあまり評価されていません。現行の「標準治療」はすべての患者にとって本当に最適な選択肢でしょうか?「痛くない治療」・「切らずに治す」は概念として提案はできますが、現時点では確固としたデ―タの裏付がありません。QOLを加味した、患者様自身が治療法を選択できるための一つの重要な項目としての「QOL生存率」の概念の確立、それを裏付けるデータの検証が必要であると考えます。

3.治療患者数の安定した維持

外部からの評価の大きな因子の一つは治療患者数です。また新規に治療を希望される患者様も治療数の多い施設・経験が豊富な施設を希望されます。また多くの症例を経験することで医療スタッフの知識・技術の向上につながり、学術的にも治療数が多ければ疾患別の詳細なデータ解析も可能となり、医療の質の向上に繋がり、医療に貢献できると考えます。

4.社会貢献最大化

現在我が国で重粒子線治療施設は7施設に限られており、今後限られた設備と人員で最大限社会貢献するためには、重粒子線治療のメリットを最大限活用できるがん治療を重点的に推進する事が必要であると考えます。

5.人材育成

現在のセンターの機能維持にも有能な人材は必要でありますが、次の5年、10年のさらなる発展を考慮すると次世代を担う人材の育成が必要であると考えます。

6.他機関との連携

全国の都道府県および地域がん診療連携拠点病院・地域がん診療病院や、大学・医師会との密なる連携、海外の関係機関との連携を推進していきたいと考えます。またQSTをはじめ、公益社団法人日本放射線腫瘍学会(JASTRO)・重粒子線治療多施設共同臨床研究(J-CROS)・一般社団法人日本量子医科学会などと引き続き連携を継続する所存です。形式・文言だけの連携では意味をなさず、実際に診療を行っている当事者レベルでの実際の症例を通じた意見交換・共同研究などの実施が肝要であると考えます。

7. 財務の健全性確保

センターにて安心して治療を受けていただくためにはまずは質の高い医療が肝要でありますが、同時に事業(重粒子線治療)の健全性、継続性を確保することが不可欠であると考えます。いい医療実践のための人材確保と育成、さらに最新医療機器の計画的更新などのための財源を確保する必要があり、経営努力を継続して参りたいと存じます。

以上